- ホーム
- 2003年10月
引き立て役
2003年10月15日 上甲晃 | 個別ページ
「帯というものは、あまり目立ちすぎてはいけない。主役はあくまでも着物です。帯の役目は、着物を引き立てることにあるのです。だから、この作者は、できるだけ控え目で、柔らかなデザインの帯作りに取り組んでおられます」。そんな説明をしてくれたのは、松下美術苑『真々庵』の苑長である徳田樹彦氏。徳田氏からは、今までから何度も、松下美術苑の地下に展示されている人間国宝の作品について説明を受けたことがある。そして今回もまた、説明を聞きながら、なるほどと大きく納得し、うなづくことがあった。それは、すべての作品には、脇役、引き立て役の存在が大きいことだ。
帯が主役である着物の存在を引き立てる重要な働きをするように、人形の置き台や置き板もまた、うえの人形を引き立てる重要な働きをしているのだそうである。私もそんなことを知ったのははじめてである。そう言われて人形の下にある板を見ると、絶妙の働きをしている。真っ黒に塗られた板もあれば、波の様子をそこはかとなく表した板もある。すべて、まったく自己主張することなく、主役をいっそう引き立てている。
あるいは有名な焼き物の、柿右衛門。白い生地の上に、鮮やかな赤い色の花が生えている。私はどうしても鮮やかな色彩に目が向くが、柿右衛門の真髄は、皿全体に広がっている白地にあるのだそうだ。「この白い生地は、真っ白ではありません。米のとぎ汁の白さです。柿右衛門の真髄は、この米のとぎ汁の白さを出すことにあるのです」と説明されると、初めて生地の目が向く。確かに、純白ではない。これを、"濁手"というと教えられると、すっかり"通"になった心境である。ここでもまた、濁り手の白い生地が、鮮やかな赤い色を引き立てているのだ。
まだある。江戸小紋。天眼鏡を近づけて見なければ、とてもその文様が識別できないほど繊細である。その驚くほどきめの細かいデザインは、極限まで削り上げられた刃物、ミクロの極致である紙型など、下支えする技術や道具のおかげである。作者は、「最高水準の技術や道具の上に、私はちょこんと乗っかっているだけ」と言う。謙遜の言葉であると共に、真実の言葉でもあるのだ。
最高級の作品は、引き立て役があって、初めて輝いているのだ。作品を見る時には、引き立て役を見ることが一つのポイント。江戸小紋のような極限の繊細さを誇る作品を作る時に、紙型を作る人たちは、どうしても失敗を恐れる。そこで作者は、失敗した作品もすべて買い取ることを約束する。それによって、引き立て役が大胆に挑戦できるのだ。
読み書きソロバン
2003年10月14日 上甲晃 | 個別ページ
読み書きソロバンをしっかりと勉強することは、「生きる力」を育むというのが、公文教育研究会の理念である。知性の原点は、読み書きソロバンというわけ。確かに、読む能力がないと、書を読めない。書く能力がなければ、手紙一つ事けない。ソロバン、すなわち計算能力がないと、物一つ買うことができない。読み書きソロバンを励むことは、人間の学びの出発点であり、生きていく原点だ。公文教育研究会は、読み書きソロバンの能力を育てるために、五千段階の連続した教材をそろえていることが最大の特徴だ。
しかも、その五千段階の教材を、自らの実力に合わせて取り組むことのできるのも特徴。『ちょうど』の学び、自分の実力に『ちょうど』の教材に挑戦できるのである。
その公文の教材が、今、幅広く注目されている。学校教育にも公文の教材を取り入れるところが出てきたことを、ある日刊紙が紹介していた。
また、老人のぼけ防止や痴呆症の治療に威力を発揮していることを知った。公文教育研究会の副社長である福島眞治さんによると、既にいくつかの老人福祉施設で、公文の教材が治療用に採用されているとのことである。読みかソロバンというと、子供の教育ばかりを考えていたが、老人の頭の活性化に有効であると初めて知った。
「私の父親も、軽度のアルツハイマー症状があります。その父に、公文の教材に取り組んでもらっています。母によると、効果てきめんで、父親の生きる力が回復してきているとのことです」。一つ一つの課題を達成していく実感を味わうことにより、「やればできる」との自信を取り戻し、生きる力が再び生まれてきているのだ。これは、まことにすばらしい読みであり。朗報である。
お年寄りが、自らの『ちょうど』に合わせて、読み書きソロバンに挑む。一つの段階を達成して、"できた"という達成感を味わう。そして、次の段階に進む。向上心の実感である。そしてそれを達成する、また挑戦する。
一足飛びではなく、一段一段と確実に登っていく教材は、まことに優れもの。「やればできる」と感じることが、生活のすべてにわたって活力を和えてくれるようになる。
そもそも真理は平凡の中にあるのだ。読み書きソロバンなどというと、いかにも幼稚に受け止めるのは、大きな間違いである。基礎をしっかりと身につけることは、生きていく
