志ネットワーク 青年塾:「志の高い日本」は、「志の高い日本人」によってこそ実現するとの思いに立ち、志ネットワーク活動を展開。 主宰:上甲晃

ブータン

2004年6月15日 上甲晃 |

 最近、私は、ちょっとした゛ブータン狂゛である。

 九州程度の面積の国土に、わずか七十万人の人口を抱えるブータンは、南は海抜百メートルの熱帯雨林から、北は海抜七千メートル級のヒマラヤ連望がそびえ立つ山地まで、まことに起伏の大きい国土である。私は、まだ訪ねたことがない。そのブータンに狂い始めたのは、名古屋市内でイマジンという会社の会長を務める近藤秀二さんから、『選択』という雑誌のコピーをいただいたのがきっかけである。

 この記事の見出しは、「ブータン発『国民総幸福量』という価値観」とある。私も雑誌『選択』を購読しているが、近藤さんにコピーをもらうまで、記事のことには気がつかなかった。それにしても、ブータンの国王は、すばらしい指導者、国家経営者である。

 ブータンの国王であるジグメ・シンゲ・ワンチュク。別名、龍王とも呼ぶ。十六歳で国王の座に着き、「国の中を舐めるように歩き回った」(『選択』)。そして国王は、目覚めたのである。

「我が国の民は物は貧しくとも心は豊かだ、と。そして、近代化がもしもこの豊かさを脅かす時が来たら、雷龍の国は滅ぶ」(『選択』)。そしてそれをそのまま国づくりの根本の理念に据えるのだ。それが、国民総生産量ならぬ、国民幸福量の考え方だ。ブータンの国王は、国民総幸福量を拡大させることを基本として、国の運営を悠然として行ってきたのである。

 雑誌では、国民総幸福量について、端的に説明している。「目的と手段を混同してはいけない。経済成長自体が国家の目標であってはならない。目標はただ一つ。国民のしあわせに尽きる。経済成長は成長を求めるために必要な数多い手段のうちの一つでしかない。そして、富の増加が幸福に直接つながると考えるのは間違いである」。それにしても、すばらしい指導者の『志』ではないか。株価か上がり、景気が上向くと、途端に政治家に対する評価が変化する日本の現状と比較しても、以下に日本の現状とは正反対、対極にあるかがわかる。

 ブータンでは、「人々の幸せに満ちた生活を可能にしてくれる自然環境、精神文化、文化伝統、歴史遺産を破壊し、その上家族や友人と地域社会の絆までをも犠牲にするような経済成長は、人間の住む国の成長とは言えない」とされている。金儲けのためには、環境の破壊、精神文化の軽視、人間の絆を断ち切ることなど意に介していない日本の現状を嘆かわしいと思うほどに、ブータンが光り輝いて見える。松下政経塾卒業生の政治家諸氏にも、ぜひ教えたい記事だ。

出版

2004年6月14日 上甲晃 |

 行雲流水。「新進気鋭の作家である」と、私は思っている。書店に、その人の作品が並べられたことはなかった。しかし、この六月、行雲流水さんは、『正義』と題する長編の小説を出版した。全国の書店で取り扱われることになった。もっとも、「売れる本を並べる」ことに血道を上げている書店が、この本を店頭に積み上げるように並べるような動きはない。

 行雲流水さんは、私が松下電器に入社した時の同期生である。今も、最も親しく付き合っている仲間の一人だ。本当の名前は、崎谷 茂という。もともと、松下電器で営業畑や企画畑を歩んできた、典型的なサラリーマンである。一昨年、松下電器が大々的な早期退職者の募集をした時に、応じた人である。その後、マンションの管理人になって、隔日勤務していると聞いていた。「マンションの管理人の試験がどれほど難しいか。それでも、定年後、年金だけで暮らしていくことの不安かがあったから、働くことにした。この仕事は菩薩行よ」と、私に話してくれた。

 しかし、崎谷氏には、志があり、夢があり、特技があった。マンションの管理人を勤める一方で、小説を書いていたのである。現役のサラリーマン時代から、同人の雑誌に寄稿していた。

きわめて几帳面な筆の進め方には、感心していた。表現も、まことに丁寧なのである。「花がきれい」などといった表現はしない。どの程度の背丈のある、何の花が、どのようにきれいかを実に丹念に描いているのが、印象的であった。

 『正義』と題する小説を読んだ。企業と政治、そして利権を中心に渦巻く人間模様は、迫真の表現である。私が何よりも感心したのは、小説の舞台になった東京の様々な場所の表現が詳しくて、精緻なのだ。それには理由がある。崎谷氏は、定年前の数年間、東京に単身赴任していた。「その歳で単身赴任も大変だね」などと同情していたが、彼は単身赴任の期間を利用し、丹念に東京の中を歩き回っていたのだ。

「隅田川は江戸時代、大川と呼ばれ、東海道を始めとした陸路の五街道と並び江戸経済を支える水路交通の中核であった。そしてまた、遊郭吉原への水路でもあった。当時、吉原への遊客は、陸路を徒歩か駕籠、または柳橋辺りの船宿から大川を猪牙舟で上がっていった。そして今では、かつてそうした遊客を乗せた猪牙舟が行き来した大川に、季節季節の観光客を乗遊覧船が昼夜を分かたず船行きしている」。このような表現で、東京のいたる所が語られる。だてに単身赴任していなかったところが偉い。やっぱり、志だ。ちなみに、この本は、日本文学館の出版で、何と、千円。注目の一作が、世に認められることを祈る。

第11回 日本の進路研究会

2004年6月 8日 上甲晃 |

   日本の治安を考える
     警察庁の幹部を招いて学びます

 日本の治安は大丈夫なのか。増え続ける外国人の犯罪、なかなか上がらない検挙率、
コンピュータの進歩により複雑になる犯罪の構図。治安は、私達の日常生活にかかわる
最大のテーマの一つであります。

日本の治安の現状と課題ならびにこれからの展望について、今回、警察庁の幹部を
招いて、学びます。得がたい機会であります。ぜひとも、多くの皆様のご参加を
お待ちしています。
 
 テーマ=「日本の治安、現状と課題。そして未来」
 講師  警察庁刑事局刑事企画課 樋口課長 

 日時:平成16年7月21日 (水) 午後6時~午後9時

副市長の奮闘

2004年6月 3日 上甲晃 |

 ちょうど一年前に横浜副市長に就任した前田正子さんは,松下政経塾の第三期生である。大阪出身らしく,庶民的な性格で、お高く止まっているところはまったくない。本音ですげすげものを言いながら,どこか愛嬌があり,聞いている人達に大いに好感を抱かせた。

五月二十六日に開催した、私が主宰する「日本の進路研究会」の第十回目の講師は,前田正子さん。会場は、横浜の゛みなとみらい二十一゛のシンボル的存在であるランドマークタワーの十三階にある大会議室。およそ四十人ほどの受講者は、しばしば会場の爆笑を誘いながら進めていく前田さんの話に、引き込まれていった。「中田市長も,魅力的な人を副市長に選んだものだ」と、喝采を浴びた。

 ある生命保険会社の研究員であり、十二歳と二歳の二児の母であった前田正子さんに,松下政経塾の後輩である中田宏氏(横浜市長)から突然電話がかかった時の用件は,「子育て支援の仕事を手伝ってくれないか」といった程度の内容であった。子育てや保育園の体験を何冊かの書物に著していた前田さんは,その延長線上での依頼だろうと,「いいわよ」と軽く受け止めた。

しかし,その電話は,前田さんを副市長に抜擢する中田氏の最初の布石であった。やがて,前田さんが,「あの話はなかったこと」と忘れかけたころ、「副市長を引き受けてほしい」との依頼があった。議会の根回しなどがあり、事は簡単に運ばない。中田氏は、「結論が出るまで極秘」と口止めしたころから,前田さんは,「大変なことになった」とあわてた。時既に遅し。外堀も内堀も埋められ,あれよあれよと言う間に,副市長の席に座るようになった。「あのころは,出産して一年の育児休暇が明けたばかり。深く物事を考える余裕もなかった」と前田さんは,笑い飛ばす。

やがて議会で正式に就任が可決された直後,人事局長がきて,「副市長の担当は,福祉と医療と横浜市立大学,そして教育です」とうやうやしく申し渡されて,仰天した。「私がそれをすべてやるの?」と聞き直したら,「さようでございます」と人事局長は涼しい顔で答えた。
それから、前田副市長の一年は始まった。

「横浜市には三人の副市長がいます。財政と人事を握る筆頭副市長、横浜市役所始まって以来の秀才と噂されるもう一人の副市長,そして私です。もともと、私が担当する仕事は,今まで,中央から来るお金をばらまくだけの仕事だから、女性が担当すればいいと決まっていたようです。ところが、財政危機に遭遇して,お金を配るどころか、厳しく支出を見直さなければならない時代を迎えて,私の担当する仕事も次から次へと大きな問題に直面しました」と話を始めた前田さん。老人の無料バスの廃止,横浜市立大学の独立法人化、さらには直営病院の改革など,過酷とも言うべき大問題に立ち向かわなければならなかった。

敬老パスは,七十歳以上の老人が無料で、バスや地下鉄に乗れ制度。お年寄りにはありがたい特典ではあるが,財政難の折,このまま増え続けていく高齢者に対応することができないことは目に見えている。平成二十年には百億円,平成三十年には百五十億円の財源が必要だ。「年寄りを敵に回すと,選挙に勝てない」と脅かされるたびに,今までの市長はこの問題を先送りしてきた。だから、市役所の幹部は,「中田市長も手をつけられまい」とたかをくくっていたふしがある。しかし,中田市長は敢然としてこの問題に手を着けた。多くのお年寄りから、脅迫まがいの抗議が寄せられた。「年寄りを殺すつもりか」と詰め寄る人もいた。しかし、ない袖は触れない。また、自分の人気のために、破綻する財政を放置できない。中田市長は、本気にこの問題に取り組んだ。

それは市役所の職員に,「中田市長は,市政改革に本気だ」と思わせるだけの衝撃があった。そして、「お金を配って,みんながハッピーになる時代は終わった。これからは、行政サービスの切捨てに本気で取り組まなければならない」と覚悟を決めさせることにもなった。

前田市長の役割は、これからの時代に本当に必要なものは何かを見極めて、投資すべきものは投資する一方、不必要なものや赤字垂れ流しているような事業を大胆に切り捨てていくことだ。それは口で言うほど簡単ではない。なぜならば、そこに既得権益者がいるからだ。抵抗は、すこぶる激しい。しかし、前田さんはめげない強さを持っている。

横浜市が直営する三つの病院は、巨額の赤字に陥っている。新しく完成する新港湾病院は、前市長の悲願だった。大理石を敷き詰めた新病院は、全国一贅沢な造りである。ところが、残念ながら、この病院をオープンすると、巨額の赤字が待ち受けている。バブル全盛時代の発想は、今となさっては、すべてお荷物どころか、命取りにもなりかねない。

前田さんは、中田市長と力を合わせて、大胆な市政の改革を進めている。役所の職員が、中央からのお金をばら撒いて、ふんぞり返る時代は終わった。「ただ、市民の意識も二分化しています。

前田正子さんの話は、大変に刺激的であった。何よりも、これからは市民意識の高揚が求められると、つくづくと思い知らされた。家の前に横たわる猫の死骸を見て、自分で処理できる人、役所へ電話をかける人。その違いが、これからは大きな違いを生むことになるだろう。


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