祈り

上甲 晃/ 2002年3月3日/ デイリーメッセージ/

「木を切らせていただくにあたり、海の幸、山の幸をお供えし、謹んで山の神様、木の精霊に御礼申し上げます。昭和15年春、この場所に植えられて、広く深く根を張りて60年あまり、こんなにも立派に育っていただきました。本当にありがとう。今日、これから切らせていただくことになりますが、この上は、製材をいたし、上甲先生のお宅の建築用材として、有意義に使わせていただきます。願わくば、あなたにつながるすべての人々の作業の安全とお幸せを請い願い、あなたを使っていただく上甲先生のお宅の、ますますの弥栄(いやさか)をご祈念し、ご請願申し立てまつります。重ね重ね、厚く厚く、山の神様、木の精霊に御礼申し上げます。ありがとうございました」。

この文書には、願い主、寺岡林業・寺岡廣、参会者一同とある。すなわち、林業家の寺岡さんが、我が家の増築のために木を切るにあたり、感謝と祈りの言葉を捧げてくれたときの原稿である。私は、森の中で、一本の杉の木を切る直前、寺岡さんの感謝と祈りの言葉に感動した。思わず、背筋がのびるような緊張と喜びを感じたのである。そこで、寺岡さんが手にしていた原稿を記念に譲ってもらったのである。

今まで、家を建てるときに、そこで使う材木の元になる木を切るのに立ち会った施主はいないのではないだろうか。私は、これからの家作りには、施主が森の木と出会い、木を育ててくれた林業者と出会う。また、林業者がお客様と会うといった、そんな交流が必要であると思ってきた。「わが家の柱は、三重県飯南町に住む寺岡さんが丹精こめて育ててきた森の中の、入口近くのあの斜面に生育していたのだ」と施主は知る。林業者は、「私が育ててきたあの杉の木は、今、大阪府堺市に住む上甲さんのところのこの柱となって使われている」。そんな心の通い合いがかなう家作りがあっても良いのではないだろうか。

今回、私が呼びかけた゛森の研究会゛に参加してくれたのは、24人。最初は、半信半疑ではなかっただろうか。しかし、実際に木を伐採する場に立ち会ってみて、みんなは、あまりの神秘的な雰囲気に、きっと心を揺り動かされたはずである。

もし、施主の家族が一家で参加したら、子供たちにも大変に良い学びと感動の場となることであろう。家を建てる喜びとともに、森に育つ木のおかげを感じ取れるだろう。また、環境教育としても、最高の場になる。そして、家が完成すれば、使った分だけ、新しく植林をさせてもらうことにしている。これこそ新しい家作りだと、私は自信を深めた。