進学塾の志

上甲 晃/ 2003年5月15日/ デイリーメッセージ/

講演が終わった後、主催者から抱きつかれたのは、初めてのことである。この日、北海道千歳市にある村上進学塾の講演会に招かれた。対象は、同塾に通う中学生と高校生、そしてその父母など、およそ四百人。中には小学生もいた。主催した村上進学塾の塾長である村上  さんは、私を七年も前から呼ぶことを計画していただいていたとのこと。私としては、それだけでも大感激であるが、村上さんの講演会開催にかける思い入れは、私が恐縮するほど強いものであった。一時間五十分、中学生と高校生に向かって話したのは、私としても初めての経験である。

聞いていただいている人たちの真剣さに励まされて、私も力が入った。予定の午後九時、うまくしゃべれた満足感を感じながら、控え室に戻った。その私の後を追うようにして部屋に飛び込んできた村上さんは、顔を紅潮させているが、言葉が出ない。私の手を思い切り強く握りながら、身体を九十度折り曲げて、お礼の心を表された。そして次の瞬間、私の体に抱きついてこられたのである。私も、感極まって、村上さんの背中を何度も叩いて応えた。

それにしても、村上進学塾の志は、なかなかに高い。「単に受験のための偏差値を上げるような塾でありたくない。塾生の一人一人が、人間として成長し、立派になっていくことまで含めた教育をしたい」と村上塾長は言う。村上進学塾は、小学生から中学生、そして高校生に至るまで、志を持つことの大切さを教えているのだ。私が招かれるのも、そのような教育方針を具体的に実現していく一環であった。

村上進学塾は、世間一般の塾のように、有名校への進学実績を誇るようなことはしない。「実績は、かなり上がっています。東京大学に入る子もいる。しかし、それを宣伝材料にして、ことさら誇るようなことはしたくない。塾生が、志をもって、世の中の役に立つ人間として成長して欲しい。それがこの塾の目的です」と語る村上塾長は、熱い心の持ち主だ。話をしていると、こちらまで段々と熱くなる。
今、五百人の塾生がいる。しかし、数は追わない。「塾生の数を増やしすぎると、人間教育が行き届かなくなる。挨拶、掃除、履物をそろえる。そんな当たり前のしつけも厳しく行います」とのこと。翌日、私は塾を訪問した。日曜日の午前中、塾のすべての教室で授業が行われていた。背筋を伸ばして勉強に打ち込む塾生たちの姿は、私の心をとらえた。そして玄関の下駄箱を見ると、塾生たちのすべての靴は、ひとつの方向に向けて、きちんと並べられていた。これは、並みの塾ではない。