出逢い

上甲 晃/ 2003年05月26日/ デイリーメッセージ

北海道・栗山町。札幌から一時間足らずの距離にある、人口一万五千人の町である。この町に、三年前、一人の元プロ野球選手が、私財を投じてつくった少年野球のグラウンドがある。栗山英樹さんは、かつてヤクルトスワローズで活躍した人気の選手。今は、野球解説やNHKの料理番組でもおなじみの人である。この日、『青年塾』の研修のために、栗山町を訪問した私たちを、栗山町長の川口孝太郎さんが、栗山さんがつくったグラウンドに案内してくれた。

芝生が青々としても手入れの行き届いたグラウンドは、右翼七十メートル、左翼八十メートルの広さがあり、本格的である。芝生の緑が美しい。左翼の小高い所にログハウスがある。ログハウスの中には、栗山さんが集めた有名野球選手のユニフォーム、愛用のバット、写真、人形などが提示されている。栗山コレクションともう言うべき値打ちもの。

展示されているバットを手にして、「へえー、これがイチローの使っていたバットか」などとしげしげと見つめていた。その時、栗山さんが今千歳空港に到着して、間もなく到着するとの連絡が入った。栗山さんの志に魂の共鳴するものを感じていた私は、本人が現れることに興奮した。

やがて栗山さんは、腰の低い、第一印象の良い人だ。かつて人気のプロ野球選手であり、今はテレビでおなじみの有名タレントとはとても思えない謙虚さがすばらしい。すぐその場で、今日の『青年塾』で、三十分でいいから話してもらえないかと頼んでみた。そしてさらに、このログハウスを研修会場として貸してもらうことまで頼んだ。随分あつかましい話だ。

しかし、栗山さんは快諾してくれた。そして、およそ半時間、このグラウンドをつくった思いを話してくれた。「アメリカでは、高収入を得た人は、それを社会に還元するのが一般的である。大リーグの有名選手も、少年たちに夢を与えるために、私財を投じてグラウンドなどをつくることが当然のように行われている。私も、是非とも少年たちの夢につながるような野球場をつくりたいと、各地を調べ歩いていました。なかなか適当な場所がないので、もどかしい思いをしていた時、栗山町の若い人たちから、「全国で活躍している栗山さんに集まっていただくような試みをしたい」と話が持ち込まれました。私は、名前だけを貸すような形ではなく、何かお役に立ちたいとこの地を訪問して、すばらしい土地柄に惚れ込みました、そこで、かねてからの夢であった少年野球のグラウンドをつくることにした次第です」と語ってくれた。三十八歳にしては、惚れ惚れする志ではないか。自らの贅沢に金の糸目をつけない成金とは違う。

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