頭取の志

上甲 晃/ 2004年7月18日/ デイリーメッセージ/

「バブル膨張期の金融機関に欠落していたのが、公共性という意識。儲け至上主義とも言うべき収益動機に完全に支配されていたのではないかと思う。とことん営利を追求することが、経営の至上・最大課題であるということから、スケールメリットを狙い、ボリュームを拡大していく。つまるところ、自らが儲ければいいという貧しい考え方が主流を占めてしまった結果、企業の優先課題は必ずしも収益とは限らないという考え方、ある種の公益性を多くの企業から奪ったのではないだろうか」。こんなことを言い切る銀行の頭取がいる。山口県周南市に本拠を構える西京銀行の頭取の大橋光博さんである。私は、日本の銀行には珍しい『志の頭取』であると評価し、最近、親しくお付き合いさせていただいている。

この日は、大橋さんを、私が出演するラジオ放送に出ていただいた。私とは、学生時代、ほぼ同じ時期に京都で学生生活を送った人である。私の方が一つ年上だが、学生時代は、ほぼ重なる。同じ時代を生きてきた者同士の共鳴共感もあるのだろう。話は打ち解けたものになり、なかなか素晴らしい内容の話が聞けたように自画自賛している。

大橋さんが最近著した本の題名は、「小さく、ゆっくりでいい」。そもそもタイトルからして、日本の銀行が目指しているものとは逆だ。「業績回復は、結果です。今の銀行に必要なことは、社会性の回復。とりわけわたしたち地方銀行は、地域の経済発展のために役に立つという原点にもどらなければならない」とおっしゃる。私は、惚れ惚れとする。銀行経営に素人の私が日ごろ主張していることと、同じであることがうれしい。

「女性と若者に、無担保で五百万円融資」。西京銀行は、しあわせ市民バンクを創設した。今まで銀行が一番融資を嫌ってきた女性と若者こそ、新しい地域経済の担い手であるとの思いからである。バングラデッシュのグラミン銀行総裁であるユヌスさんは、貧しい農村の女性に無担保で少額融資するマイクロクレジットを推進している。ユヌスさんの話を初めて聞いた時、これは日本にはいない、志あるバンカーだと感動した。しかし、日本にも、志あるバンカーがいたのだ。

コミュニティビジネス。地域の小さな起業の芽を育てていくことを目的にすること自体、志がなければできないことだ。既に、五件のコミュニティビジネスがスタートしている。柳井みやげのお菓子を作る人、体験型の農場など、小さいが、今までにない試みだ。また、小さな起業を支援する活動にも力を入れている。来週、日本の進路研究会の講師として招いている。詳しく話が聞けることが楽しみである。