栽培漁業

上甲 晃/ 2004年07月21日/ デイリーメッセージ

「与えられた仕事を好きにならなければ」。そんな一言に、私は、思わず目を見開いた。「好きな仕事をすることが大事なのではなく、自分が今取り組んでいる仕事を好きになることのほうがもっと大事だ」といつも言っている私としては、同志に出会ったような感激を覚えた。襟裳町役場の農林水産課長である三戸 充さんは、「与えられた仕事を好きになった」モデルのような人である。

とにかく、三戸さんは、熱心である。とりわけ自分が取り組んできた栽培漁業のことになると、時間を忘れて、口角泡を飛ばす。それこそ止まることを知らない勢いで、説明してくれる。まるで丹精込めて育ててきた我が子のことを語るような熱い心が、伝わり、私達も話しに聞き込まれる。

襟裳町には、埋立地に栽培漁業のための種苗生産センターを建てた。役場の中枢を担う幹部になった今でも、このセンターが三戸さんの活動の場である。ウニはもとより、ハタハタ、クロソイ、マツカワ、マガレイ,エゾボラなどの養殖を手がけているために、種苗センターを離れられないのだ。「正月や盆休みは、若い連中が帰省してしまいます。だから、その間は、今でも私一人で、魚の面倒を見ています。若いころは、何日も種苗センターに泊まり込んで、仕事をしました。面白かったし、やりがいもあった。第一、上司から命じられたからする仕事ではありませんでした。私のほうから上司に、これをやらせてほしい、あれをやらせてほしいと申し出るのですから、こちらから文句の言いようがありません。そんなことから、この仕事が好きになってきたのです」と、三戸さんは、赤ら顔をさらに赤くして、熱弁を振るう。

三戸さんは、自分のしてきた仕事に大いに誇りを持っている。北海道庁はもとより、他の自治体で取り組んでいるどの事例よりも、自分が進めてきた仕事に自信を持っている。様々なきめ細かいデーターも、どこよりも精緻で、微に入り細に渡っていると自負する。一見、豪放磊落に見える人が、仕事の上では、実にきめ細かく、着実な進め方をしていることに驚いた。ウニの水槽には、肉眼で見たのでは分からないほど小さな物体が無数に漂っている。その微生物のような物体に餌を与え、温度管理し、やがて漁業者に販売して、海に放つ。襟裳の豊かな海では、ウニ、ハタハタ、マツカワなど、高級な海の幸が毎年豊漁である。山に木を植えると、海にプランクトンを始めとする餌が増え、魚が蘇る。その魚を根こそぎ取るのではなく、育てながら収穫する。それもまた、襟裳の人達が抱く志なのである。条件の悪い地域ほど、志が生まれやすいのだと、教えられた。

この記事をシェアする