万策尽きて、志

上甲 晃/ 2004年11月2日/ デイリーメッセージ/

最近、私が好んで使う言葉、『万策尽きて、志』。これは誰かの言葉を借用したものではない。私が考えた自前の言葉である。

その意味は何か。厳しい経営環境が取り巻く今日、多くの経営者は、考えられるありとあらゆる方法を講じてきた。対症療法である。あれがいいと言われれば飛びつき、これがいいと言われれば一も二もなく取り入れてきた。考えてみれば、この十年間、経営改善になると思えば、ありとあらゆる方策を講じてきた期間でもあったのだ。

それはまるで、健康法のようでもあった。これが身体に聞くといわれれば高いお金を出して買い求め、これが健康に効果的だと教えられれば急いで取り入れてきたのである。そして思い返してみると、健康に良いといわれるあらゆる方策を講じたにもかかわらず、結局、どれも思ったほどの効果が上がらなかった挫折感が広がっていくようなものである。

どの方法も、さしたる効果が上がらなかった。また、前宣伝されたほどの効果が上がらなかった。いわば、『万策尽きた』のである。万策が尽きた時、みんなは考え始めた。もはや小手先の対症療法ではどうにもならないのではないかと。ここはやはり、根本に立ち返り、『経営とは何か』、『人は何のために働くのか』、『会社は何のために存在するのか』、『私は何のために働いているのか』。すべての原点に立ち返って、反省し、改めるべきところは改め、止めるべきは止め、新しい出発をしなければならないことに、多くの日本の経営者は気がつき始めたのである。

まさに、『志』を立て直すべき時がきたのである。企業としての新しい志、新しい理想、新しい価値観、新しい目標を立て直すこと。そこまで立ち戻らなければ、事態を打開できない時がきたのだ。手前味噌に言うならば、「今こそ、志の時代」の到来である。

最近、私のところへくる講演依頼のテーマについて、「志について何か話をして欲しい」と注文をつけられるケースが多い。今までは、「松下幸之助について何か話して欲しい」との注文が多かっただけに、世の中の風の向きが変わりつつあることを、皮膚感覚で感じてしまう。特に今年の講演依頼は、銀行関係が多い。その銀行も、大手都市銀行である。某大手都市銀行からは、全国の支店長並びにそれに準じる幹部に、「志の話をして欲しい」と依頼されている。それも一行、二行ではない。少し大げさに言えば、゛軒並み゛依頼の注文がきている。不況の真っ只中にあった銀行もまた、不良債権の処理から、「志」へと前向きに転じ始めたのである。すべて、『迷えば、元に戻ること』だ。