総動員

上甲 晃/ 2005年6月25日/ デイリーメッセージ/

「地域を良くするのは、人間の力だけに限りません。犬も猫も、木も花も、すべてを動員する。それが私の考えです」と言うのは、山口県柳井市の市長である河内山哲郎氏。松下政経塾の第二期生でもあり、三十四歳で市長就任当時は、「全国最年少市長」として評判にもなった人である。今、四期目。最近、隣町と合併して誕生した新市の市長としては、初代である。『青年塾』西クラスの第一回研修で、今年も話を聞いた。
河内山市長の発案で、地域の活性化のために活躍している動物が、柳井市にはいる。それは牛だ。今、二十頭以上の肉牛が、市内で朝早くから夜遅くまで、わき目も振らずに働いている。その働きぶりは、市役所の職員以上だといった冗談まで聞こえてくるほどだ。
公務員ならぬ、゛公務牛゛の役目は、市内の空き地にある雑草を食べつくすこと。空き地に生えているセイタカアワダチ草をはじめてする雑草は、地域の雰囲気を殺伐としたものにする。雑草が生え放題の空き地に牛を派遣して、ひたすら食べてもらうのである。牛は、空き地から逃げ出さないように、微弱電流の通っている線を張り巡らせることにより、防いでいる。当然のことながら、牛は文句一つ言わない。しかも、牛が草を食べている風景は、一つの絵になる。地域の景観を良くする上においても、なかなかすばらしい役割を果たしている。
地域の人達が、自分の所有する土地の雑草を借りたいと思えば、農業協同組合を通じて、公務牛を貸してもらえる。この牛達に、気の聞いた名前がつけられた。『リンターカウ』。レンタカーならぬ、『レンタカウ』である。ネーミングの良さもあって、その存在は全国的に有名になり始めている。鳥取県の片山知事は、早速、その知恵を拝借した。「日本全体のためになるならば、どうぞまねをしてください」と、河内山市長は、鷹揚に構える。各地からの視察申し込みもひっきりなしだとか。
「ただ、視察に来てもらっても、牛が草を食べているだけですから、別段珍しいものではありません。わざわざ柳井まで来られなくても、あなたの地域でもいくらでも見ることのできる光景ですよと言うのですが、どういうわけか、わざわざ足を運んで退去して視察に来られます」と、河内山市長は苦笑する。
河内山市長のアイデアは、財政難の折、なるほどと納得させられ、へえーと感心させられるものが多い。「金がなければ、頭を使え」というわけだ。「今まで、゛金の切れ目が縁の切れ目゛のような仕事の仕方をしてきた役所としては、新しい方向だと思います」。河内山市長は胸を張る。