りんご哲学者

上甲 晃/ 2008年9月4日/ デイリーメッセージ/

木村秋則さん青森県弘前市のりんご農家である木村秋則さんは、今、全国各地から求められて、日本中を駆け巡っている。「食べる物を健康にしなければ、日本人を健康にで きない」と信じて,農薬も肥料も使わない農業の普及に、各地を走り回っているのである。今回の『青年塾』サマーセミナー最終日、弘前市郊外、岩木山の麓に 広がるりんご園に、木村さんを訪ねた。サマーセミナーの実行委員長である伊藤一弘君が、「とにかく木村さんをつかまえるのが大変でした。ほとんど出かけて おられる上に、携帯電話を持たない。連絡がつかないのです」と言う。その横で、木村さんは、前歯の欠けた口を開いて、いかにもうれしそうに笑う。
木 村さんは、不思議な優しさをかもし出す、魅力的な人である。先ず何よりも、言葉遣いが良い。私は、言葉遣いの良い人が、大好きである。言葉遣いの良い人 は、思考が哲学的で、物事の真理をつかんでいる。それは、高い志を持ち、理想に燃えて、血のにじむような実践を続けてきた人達が到達した゛名人の台詞゛で もある。
りんご園りんご園の一角に止めた軽自動車を背にして、木村さんが話し始めた。いきなりから、ぽんぽんと、魅力的な言葉が飛び出てきた。
「りんご栽培の主人公は、りんご。私が育てていると思っている間は、うまくいかなかった。私は、ただのお手伝い」。
「こびりついた常識。常識をまず、疑ってみなければならない。私達が常識と思い込んでいるうちの半分は、間違っている」。
「食べる物を通して、心は良い方向に働くもの。食べ物が脳の一部を刺激して、人間の心を輝かせる」。
「消費者を教育しながら、生産者の意識を改革していく」。
そ もそも木村さんが、無農薬、無肥料の農業に取り組み始めたきっかけは、奥さんの病気にある。りんごに農薬を盛んに散布していたころ、一緒に作業している奥 さんの体調が非常に悪くなった。その様子を見て、農薬を使うものだという常識を疑ってかかった。農薬を一切使わない、肥料も一切使わない。りんごそのもの が持つ゛育つ力゛を存分に発揮させるように土を整える。木村さんの挑戦は、苦闘の連続であった。最初の七年間は、りんごが実らなかった。りんご農家にとっ て、りんごが実らないことは、死活問題だ。周りからは、当然のごとく、冷笑された。その苦労の歩みは、NHKの番組を通じて、全国に知られた。
木村さんの話を聞く『青年塾』塾生達の周りに、りんごが豊かに実っていた。木村さんが育てる無農薬・無肥料のりんごは、今や、貴重品だ。