無言の叫び

上甲 晃/ 2008年12月5日/ デイリーメッセージ/

鳥浜初代さん「戦争は、あってはならないことなのです」。包み込むような優しい言葉遣いで話を進めてきた鳥浜初代さんが、きっぱり言いきった。言葉の後、しばらく静寂の時が刻まれる。大広間の空気が、瞬間、引き締まった。話に、まんじりともせず聞き耳を立てていた『青年塾』西クラスの塾生諸君の背筋が、いっそう伸びた。私達が座っている大広間は、かつて特攻隊員達が、再び生きて帰ることのない任務のために飛び立つ前、つかの間、魂を癒した場所である。この日の語り部の鳥浜初代さんは、゛特攻の母゛として、隊員達から母のように慕われていた鳥浜とめさんの、孫の嫁であり、鹿児島県知覧町にある富屋旅館を切り盛りしている。

私は、何度も聞いたはずの初代さんの話に、新鮮な思いを持って、引き込まれた。初代さんは、とめさんの言葉をもって、自らの思いを伝える。「僕達が飛び立っていけば、きっと戦争のない平和な世の中がくる、平和の礎が築かれる。特攻隊に散った若者達は、それを信じてこの地から敵に向かって、飛んで行きました。あの子達が命を懸けて戦ったのは何のためだったのか、今の時代に生きる私達は考えなければなりません」。私は、強い衝撃を受けた。

もはや特攻隊の隊員達の思いどころか、日本がアメリカと戦争したことさえ知らない若い人達が増えてきた今日、鳥浜初代さんの一言は、重い響きを持って、私の胸に迫る。゛無駄死に゛、そんな言葉が思い浮かぶほど、今の日本は情けない姿にある。決して、゛無駄死に゛に終わらせてしまってはいけないのである。

中でも、印象深かった言葉は、「やがて戦争を知らない人達ばかりの世の中になる。その時、亡くなってしまった゛物言わぬ空気が、ものを言う時がくる。けれども、後の人達に、それを受け取る力がなければ、何の意味もなくなるのです」。今まさに、戦争を知らない人達ばかりの時代を迎えつつある。もう十年もすれば、直接に戦争を体験した人達が、日本にはいなくなる。その時に、「戦争はあってはならないことです」と肝に銘じた先人達の思いは、受け継がれるのであろうか。

昨今、勇ましい発言が増えつつあるように思う。「武力行使も辞さない」。そんな発言が、喝采をもって国民の間で受け止められるとしたら、もはや、「戦争はあってはならない」と肝に銘じたはずの先人達の戦争体験は、無意味なものにとなり下がる。今の時代、国を守るためには、軍隊の存在も否定しきれない。しかし、その根底に、「戦争はあってはならないこと」と肝に銘じた先人の祈りがなければならない。