世界一の駐車に挑戦

上甲 晃/ 2009年02月05日/ デイリーメッセージ

空気が違うと、私は感じた。長野県伊那市に本社のある伊那食品工業の新しい工場の社員駐車場の中を歩いている時のことだ。私と並んで歩いていた社長の井上  修さんが、「ここの社員駐車場では、今、世界一の駐車の仕方に挑戦しています」と言う。駐車場の設備や大きさで世界一をめざそうというわけではない。社 員が、決められた駐車スペースの中に、世界一、整然と車を停めることに挑戦しているのだ。
そう言われて、改めて駐車している車の列を見て、納得した。駐車スペースの中に、どの車も、隣の車の駐車スペースとの境界に引かれた白い線から、ぴたりと等間隔に並べられている。私がどこか空気が違うと感じたはずである。
私自身、車を停める時、そこまで考えたことはなかった。時々、駐車してから車の外に出て、「あまりにも行儀が悪いな」と、車を停め直したことはある。しか し、世界一美しく停めようなどと意識して駐車したことなど、一度もない。『いい会社をつくろう』という社是を掲げている伊那食品工業の゛いい会社度゛は、 かなりレベルが高いようだ。
井上さんは言う。「車をきちんと停めることと、仕事をきちんとすることは関係ないと思う人もいます。しかし、それは間違いです。車をきちんと停めようと努 力することは、そのまま、仕事をきちんとこなしていく力を養うのです」。私は、膝を打つ思いがした。多くの会社では、車を停めることと、仕事をすることを 切り離して考えている。「車をきちんと停めたら経営が良くなるようなら、苦労しない」とうそぶく人もいる。それは、大きな間違いだ。車をきちんと並べる努 力は、丁寧に、そしてきちんと仕事をする実力を養っていくのだ。仕事をする人の心が変わっていけば、それが仕事に影響しないわけがない。
昨年、伊那食品工業では、創業50周年を迎えた。そのご褒美に、社員全員を、希望によって、ヨーロッパやニュージーランド、オーストラリア、国内では北海 道、沖縄へと旅行に行かせた。同社の塚越会長によると、「お世話した旅行社が、400人もの人が旅行に出掛けて、何一つトラブルがなかったことは、奇跡だ と言ってくれました」。怪我や病気はもとより、忘れ物、スリの被害に遭うといったトラブルがまったくなかったことは、まさに同社の社員の心掛けがいかに行 き届いているかを表わしている。゛社員駐車場の車の並べ方世界一゛をめざす努力と、海外旅行に出て、トラブルゼロという事実は、関係ないようで、深く関 わっている。また、深く関わっていることが理解できないと、いい会社はできない。

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