天と地を信じて

上甲 晃/ 2000年12月11日/ デイリーメッセージ/

伊東秀子さんは、正義感溢れる弁護士である。今、ある殺人事件の弁護をしている。容疑者は、女性である。同じ職場の同僚を殺害した上で、灯油をかけて殺害した容疑で逮捕された。決め手は、本人の自白だけ。今のところ物的証拠はまったくない。しかもその自白についても、「くる日もくる日も、おまえがやったと責められて、つい自白してしてしまいました」と、冤罪を主張している。

伊東秀子さんは、その女性の無実を信じて、弁護人を引き受けた。弁護料は取らない。いわば、正義の戦いなのである。160人を超える警察挙げての捜査に対して、単身、戦いを挑んでいる。

伊東さんと話をしていると、こちらまで勇気を掻き立てられる。どこからその正義感が涌き出るのかを聞いてみた。もっとも影響を受けたのは母親だと言う。

母親の口癖は、「人間は当てにならない。天と土を信じなさい」。父親が戦争に行っている留守を守り、さらに農業をしながら幼い子供たちを育ててきた母親の一言は重い。農業に従事してきたから、天と土という言い方になっているが、含蓄のある一言だ。

「人間は当てにならない」との言葉も、鋭い。私もわずかな人生を通じてそれなりに人間観察をしてきたけれども、確かに人間は当てにならない。社会的に高く評価されている人に裏があったり、信じている人に裏切られたり、とにかく当てにならない。私自身を取ってみても、ずいぶん当てにならない生き方をしている自覚がある。

人間の評価を当てにしてはいけない。人間の目を判断の基準にしていると、生き方が姑息で、迎合的で、神経症的になる。人間を超えた存在である天、そして私たちが踏みしめている土を信じて生きるのである。そこから本当の力強い生き方が生まれてくる。伊東秀子さんの生き方を見ていると、つくずくそのように思わされる。