志の人々

上甲 晃/ 2001年1月10日/ デイリーメッセージ/

バングラデシュから、今朝、帰国した。毎年1回、世界でも一番貧しい国の一つであるバングラデシュの訪問を始めて、今回で5年になる。私たち夫婦は5回目の訪問になる。今回のツアーには、18人が参加した。私たち夫婦のほかにも、5回目、4回目、2回目の参加者がいた。「癖になる」と言うと表現が不適切かもしれないが、なぜか捨てておけない気持ちにさせられてしまう国である。

「癖になる」理由は、それだけはでない。飽食、贅沢にどっぷりと浸かってしまっている自分自身を見直す、最高の機会でもあるのだ。「心の贅肉を殺ぎ落とす」、そんな表現をした人がいた。まさに、言い得て妙である。バングラデシュの田舎では、水が飲めないし、電気もこない。湯水のごとくに、水や電気を使っている私たちには、不便この上ない。しかし、不便さに耐えることによって、精神の贅肉が殺ぎ落とされていくのを実感するのである。物を湯水のごとく使う快感もあるが、簡素で質素に暮らす快感もあるのだ。

今回の訪問で、最大の出来事の一つは、貧しい人のための銀行を創設した人に会えたことである。その銀行の名前は、グラミン銀行。創設者は元大学教授ユヌスさん。この銀行は、担保をもたない貧しい人にしかお金を貸さない。しかも、回収率が98%。この融資により、一千万の人が恩恵に浴している。担保を持つ金持ちを優遇する銀行の常識を完全に変えてしまったのである。

「銀行は自分の儲けのために仕事をするのではない。人々の役に立つために仕事をするのである」。その当たり前のことを、ユヌスさんは、成し遂げたのである」。世の中で、本当に困っているのは、貧しい人たちなのだ。本当にお金が必要なのは、貧しい人たちなのだ。
「お金のために人があるのではなく、人のためにお金がある」。ユヌスさんは、そんな当たり前を成し遂げたのである。

もちろん、ただいたずらに貸すだけでない。その融資により、貧しい人たちが経済的自立を図れるようにする。その仕組みは実に考え抜かれた見事なものであった。
貧しい国だからこそ、志が光るのである。志があるからこそ、困難を乗り越えていく勇気が生まれてくるのである。貧しさの中にあることを少しも嘆かず、貧しさの解決のために立ちあがる人の存在が、この国の大きな救いである。今回の訪問では、たくさんの志高い人たちしたに会えたことが、最大の成果であった。