金より夢だ

上甲 晃/ 2000年12月18日/ デイリーメッセージ

「金よりも夢」。プロ野球・阪神タイガースの新庄選手が、アメリカ大リーグに挑戦することを決意したときの一言である。私は、この一言がたいへん気に入っている。”ダメ虎キチ”時代の新庄選手よりも、夢にかけて大リーグ入りを決意したときの新庄選手の方が応援したくなる。タイガ-スファンの私としては、中心選手が抜けることは痛手ではあるが、そんなことはどうでもよいのだ。”夢にかける青年”の姿勢は、かっこいい。

新聞の記事の見出しは、「10億円を蹴って、1億円の冒険にかける」とあった。日本の各球団が提示した10億円もの収入の契約を蹴り、その1割程度の収入しかないアメリカの大リーグ球団であるニューヨークメッッに移籍するというわけだ。しかし、現実は1億円どころか、その4分の1程度の厳しい契約であったことが明らかになった。しかも、日本の球団のように、複数年契約ではない。1年で成績が悪ければ、即刻、首になるといった厳しい内容の契約であった。

金の計算だけをして、安定を第一に考えるならば、とても比較にならないほどの苛酷な条件を、新庄選手は選んだことになる。評論家諸氏や、プロ野球関係者は、「自らの実力のほどを知るべきである」とか、「現実はそんなに甘くない」などと訳知りなことを言う。とりわけ、輝かしい実績を残して同じ時期に大リーグ入りするイチロー選手と比較して、挑戦の無謀さを指摘する人もいる。

しかし、私はまったく違う。新庄選手の挑戦に、実はわくわくしているのである。世間をあっと言わせるような結果を残せればまことに結構であるが、夢破れてばろぼろになって帰るのも、新庄選手のためにはおおいに良いと思っている。28歳、独身。何も失うものはない。ヤクルトの川崎投手は、妻の反対で夢をかなえることができなかった。独身であれば、妻の反対もない。何も失うものをもたない強みは、自らの夢に挑戦できることである。へたな計算をして現実妥協するよりも、「まずはやってみる」ことに私は大賛成だ。失敗しても、それも宝物になるだろう。

「後悔先立たず」とは、よく言ったものだ。あのとき挑戦しておけば良かったとどんなに悔いても、40歳になれば、時すでに遅し。生涯、悔いが残り続ける。ニ鹿とない人生、「後悔先立たず」なのである。

それにしても、現代の日本社会は、そこそこに豊かになったせいか、安定志向の”小市民的若者”が多すぎる。その一点をとってみても、日本の先行きは暗い。若い人は、簡単に訳知りにならないほうが良い。後先考えずに夢にかける、そんな若者を後押ししていきたいものである。

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