社員を大切にしなさい

上甲 晃/ 2001年6月4日/ デイリーメッセージ/

「社員を大切にしなさい。社員を大事にしてあげたら、社員はお客さまを大切にします。お客さまに満足を提供するためには、社員がその会社に満足していることが大前提です。社員を気遣えば、社員はお客さまを気遣います」。そんな会社のモットーを教えられたとき、まるでこれは日本の企業ではないかと錯覚した。世界に2000のホテルチェーンを展開するマリオットグループの伝統的な考え方である。

外資系企業と言えは、非情な首切、リストラを連想し、血も涙もないような合理的な割り切りが特徴だと、一般には思われている。私もまた、少なからずそうした思い込みをしていた。だから、「社員を大事にする」ことを基本のモットーとしていると聞いて、たいへん驚きもし、うれしくもあった。日本の企業経営者は、生き残りのために、非情な合理化こそが必要なことだと思い込んでいる節がある。とんでもない間違いなのである。古今東西、「社員を大切にしないで成功することなど」、絶対にありえないことである。

マリオットグループは、1927年、ワシントンでルートピアスタンド9席の営業を始めたのが、始まりである。ホテル業は、1957年からスタートしている。歴史は、浅い。わずか44年で、世界に2000のホテルを擁するようになった。これから10年で、さらに1000のホテルを展開する計画をもっている。一貫して、「社員重視の企業文化」を大切にしてきた。たとえば、同グループでは、社員を、エンプロイ (雇い人)といった呼び方はしない。すべて、社員は、同志、すなわちアソシエイトと呼ぶ。離職率は、他と比較すると、きわめて低い。アットホームな雰囲気は、定評がある。誕生会や各種の社員表彰制度があるのも、日本の企業と似ている。一日、15分間のトレーニングタイムがある。そこで、サービスの基本指針の唱和もする。まるで、かつての松下電器の朝会風景だ。

どうして、マリオットは、社員を大切にする経営を貫いてきたのか。理由は、創業者の人間性にある。創業者のJWマリオットさんとその家族は敬虔なモルモン教の信者であった。モルモン教は、酒は飲まない、煙草も吸わないなど、厳しい戒律と姿勢で知られている。マリオットさんは、深い信仰に基づいて、きわめて質素で、自制的な生活態度を貫いている。豪邸に住み、贅のかぎりを尽くす金満家ではないのだ。その点においてもまた、私の先入観が打ち砕かれた。現場で働いているウエイトレスひとりの悩みに至るまで、経営者が耳を傾ける。マリオットというのは、そういう会社なのである。私は、その事実を知って、本当にうれしかった。