志ネットワーク 青年塾:「志の高い日本」は、「志の高い日本人」によってこそ実現するとの思いに立ち、志ネットワーク活動を展開。 主催者:上甲晃

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●村長の気骨

 下条村伊藤喜一村長の口から出る言葉は、辛らつであるが、ポイントを射抜いている。昭和十年生まれ。言葉の辛らつな分、痛快でもある。
 「地方公務員は、゛痴呆公務員゛になる危険がある」などといった言葉が、ぽんぽんと飛び出すから、聞いている者達は、ついつい話に引き込まれる。「公務員というものは、目標が示されないと、仕事はのろいし、やることはとろい。しかし、目標をきちんと示せば、実に良くやってくれる。とりわけ外の空気を吸うと、見違えるように良くなる」。自ら役場の職員を叱咤激励して、やる気にさせてきたからこそ言えることなのだ。
 伊藤村長は、日本の未来を非常に心配している。とりわけ教育が危ないと心底思っているようだ。「まず親が悪い、例えば、朝起きて、自分はきれいにお化粧し、爪の先まで磨き上げて、後は時間がないからと、子供に食事もさせないまま保育所に連れてくる。そんなことが当たり前の時代になっています。先生も悪い、かつて若くて、きれいな先生がこの村の学校に転勤して来ました。早速、その先生のために、新しい一戸建ての家を提供しました。容姿も美しいけれども、ファッションもいい、いつもこぎれいでさっぱりとしている、実に魅力的な先生でした。その先生が転勤しました。先生が住んでいた家の様子を見に行った人が、唖然としました。柱という柱に、無数の傷があるのです。調べてみると、その先生は、畳の上でシートを敷いて、ウサギを飼育していたのです。弁償してもらいましたが、そんなことが日常茶飯のようにあるのです。日本の教育は本当におかしい」と、村長は憤る。
 伊藤村長は、「言うことは言うけれども、やるべきことは何もやらない。何とも無責任な時代になったものです」と嘆く。そんな世相を、「後出しじゃんけんの時代だ」と伊藤村長は、厳しく言い切る。「どういう意味ですか?」と聞いてみる。「人がじゃんけんを出した後からこちらがじゃんけんを出せば、必ず勝つ。それと同じで、世の中、済んでしまえば、いくらでも偉そうなことが言える。そんな卑怯な人が多い。マスコミなどの論調はまさにその典型です」と舌鋒鋭い。
 その伊藤村長が、下条村に行政視察に来た、ある自治体の人達からの礼状を紹介してくれた。「本当に良い勉強をさせてもらいました」といったお礼の締めくくりに、「これこそ、これからの行政のあり方だと強く感じました。私達の今までの仕事の進め方を大いに反省しています」。「行政の人達は、感じたり、反省はするけれども、そこから先の行動がない。それが最大の欠点です」。伊藤村長の気骨は、なかなかのものがある。

2005年9月12日 上甲晃 | | コメント(0) | トラックバック(0)

●下条村

 「平成の大合併」に日本中が踊っている。そんな中で、一人わが道を行く村がある。長野県下伊那郡下条村である。明治二十二年に、藤沢村と陽阜村が合併して、下条村となって以来、今日まで百六十六年、合併していない。「合併しなくてもいいように、自立の力を養ってきた」のである。どんな小さな村であっても、すべてにわたって゛ひとり立ち゛できれば、わざわざ合併する必要がないという確信を持っているのである。
 『青年塾』東海クラスの「伊那講座」で、初めて、下条村を訪問した。伊那市から飯田市に向かった。下条村は、飯田市に隣接している。飯田市までは、車なら十五分程度で行ける。伊那谷の緑豊かな河岸段丘に開けた村は、総面積三十七キロ平方メートル。決して広くはないが、きれいに手入れされた田んぼやそばの畑が、段々状に広がっている。
 伊藤村長は、黒塗りの車で現れた。ただし、運転しているのは、ご本人。ゆっくりとしたスピードで、玄関横の駐車場に車を止めた。昭和十年生まれ、現在、村長四期目。村でガソリンスタンドをはじめとして、さまざまな店を経営していた人だ。行政のベテランではない。その代わり、経営感覚には優れたものがあると定評がある。
 下條村が、長野県下ではナンバーワンにランクされることがいくつかある。まず、ゼロ歳から十四歳までの人口の比率が、一七・三パーセントである。高齢者の間違いではない、幼い子供達が人口全体に占める比率が、長野県一である。「保育所は満杯です」と、地元の人達は、子供達の多いことを証言してくれる。ちなみに、出生率は、一・九七人。全国で、一・三人を切ったと大騒ぎしているこの時代、一・九七歳は、立派。ただし、高齢者が肩身の狭い思いをしているわけではない。男子の平均寿命は、八〇・一歳。県下一である。
 とりわけ財政状況の良さは、県下有数。例えば、起債制限比率といった専門的な指数は、一・四と、県下一だ。一五でイエローカード、二〇でレッドカードと言われる。それと比較しても、いかに財政に余力があるかがわかる。純借金も、九億円と、信じられないほど少ない。地域としての自立。それを可能にしたのは、現在、任期四期目を迎えている伊藤村長の経営手腕による。例えば、一般職員は、たった三十七人。「職員の人数が少ないと、行政サービスは良くなる」との信念を持って、組織をスリム化してきた。余分なポストも置かない。公共下水は、合併浄化槽。道路は、自分達で造る。公園の維持管理も、村民のボランティア。とにかく、自主自立の姿勢が徹底している。

2005年9月11日 上甲晃 | | コメント(0) | トラックバック(0)

●寒天ブーム

 どの業界でも、ブームが到来すると、関係する人達は小躍りするものだ。「この機会を逃してなるものか。荒稼ぎするぞ」と、腕まくりするのが普通である。しかし、四十七期連続増収増益という輝かしい実績が示すように、きわめて地道に寒天の普及に努力してきた、寒天の専門メーカーである伊那食品工業は、ブームへの対応からして、やはり他とは違う。「さすがだ」と、改めて見直したくなる立派な姿勢を貫いている。
 伊那食品工業が業界紙に掲載した広告は、その姿勢を端的に表している。「寒天の原料(テング、オゴノリ)は、限りある資源です。ブームに、冷静な御協力を」と見出しに記されている。ブームが到来したら、この機会を逃してなるものかと、後先を考えない企業が多い中で、「冷静に対応してほしい」とお願いの広告を出すこと自体、驚きである。
 広告は、「寒天の人気が高まり、ある面では喜ばしいことですが、限りある原料への認識のない市場拡大は、原料の乱獲を招き、業界の健全な発展を阻害します。弊社は昔から企業のあるべき姿として、品質・供給・価格の安定を計るべく、多くの国々で原料の開発・輸入の努力をしてきました。一時的なブームは原料の産地や寒天ユーザーの皆様に好ましくない影響を及ぼします。冷静な御協力をお願いします」と訴える。
 まったくもって、堂々たる正論ではないか。このような正論が通じなくなった現在の日本社会を悲しい思いで眺めてきた私からすると、伊那食品工業の姿勢は、まことに凛々しく、感動さえ覚える。そしてさらにうれしいと思うのは、そのような姿勢を持つ会社だからこそ、四十七年間連続増収増益という輝かしい実績を継続できたことだ。やはり、「志がなければ、企業は永続できない」とつくづく教えられる。
 聞くところによると、今年二月、NHKの『ためしてガッテン』という番組で、「寒天が、早死につながる四大成人病に極めて有効な働きをする」と、具体的な実績をもって報道したことがブームに火をつけた。飛ぶように寒天製品が売れ始めた。業界で断然トップを走る伊那食品工業では、前年比三割から四割増という異常な売れ行き。作っても作っても、足りない。休日返上で、お客様の要望にこたえようとした。しかし、民放が寒天ブームをあおり始めてから、雲行きがおかしくなってきた。伊那食品工業はいち早く冷静を取り戻した。「寒天の効用を正しく知ってもらうためにはありがたい機会になった。しかし、ブームにあおられて、正しい姿勢を失ってはならない」と、同社の会長である塚越 寛さんと社長の井上 修さんは、冷静な対応を社内外に呼びかけ続けている。立派。

2005年9月10日 上甲晃 | | コメント(0) | トラックバック(0)

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